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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1196号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を福岡高等裁判所に差戻す。

理由

被告人幸清市の辯護人竹上半三郎同富沢準二郎上告趣意第二點について、

原判決が被告人幸に對する犯罪事実を認定する資料として「被告人幸に對する豫審判事代理判事の強制處分における訊問調書中の同人の昭和二一年八月五日メチールアルコールドラム缶一本を相被告人上田に販賣したことは相違ない旨の供述記載」を摘録していること、及び右訊問調書には、右のような事実の具體的な供述記載はなく、被告人幸は強制處分請求書記載の同被告人に對する被疑事実を讀聞かせられてその通り相違ないと供述した旨の記載だけしかないこと、並びに右強制處分請求書は原審公判廷で證據調をした形跡の認められないことは、所論の通りである。しかも右強制處分請求書を見ると、同請求書には、被告人幸に對する被疑事実としては、司法警察官意見書記載の犯罪事実とだけ記載されていて、右司法警察官の意見書を参照しなければ具體的な犯罪事実は判らないのである。訊問調書のような證據書類を罪證に供する爲には、公判廷で被告人にその書類の内容を讀聞かせ若しくはその要旨を告げて、如何なる事実がその書類に記載されているかを被告人に知らせた上被告人のこれに対する意見辯解を徴さなければならないこと即ちその書類の證據調をしなければならないことは被告人に防御權の行使を全からしめる上からいって當然のことである。故に他の書類の内容を引用した證據書類を罪證に供するためにはその書類は勿論それに引用した他の書類をも證據調しなければならないこと言を俟たないこところである。そして前記の如く右豫審判事代理判事の被告人幸に對する訊問調書は、強制處分請求書の内容を引用しているけれども、同請求書には更に司法警察官の意見書が引用されて居って具體的には、犯罪事実の記載はないのであるから、右訊問調書を罪證に供するためには、右訊問調書と共に右強制處分請求書及び前記司法警察官の意見書を證據調しなければならない、然らずして右のうち強制處分請求書の證據調をしていないときは、たとい右訊問調書及び右司法警察官の意見書については證據調がしてあっても、それだけでは、被告人幸には、右訊問調書の記載は豫審判事代理判事が如何なる被疑事実について問を発し同被告人がその通り相違ないと答えたものであるか右訊問調書の内容を知ることができず同被告人はこれに對し意見辯解をするに由ないものである。して見れば原判決が右強制處分請求書の證據調をしないのに、前記予審判事代理判事の訊問調書の供述記載を被告人幸の犯罪事実認定の資料としたのは證據とすることのできない證據を罪證に供した違法あるもので原判決は同被告人の爲に破毀しなければならない、論旨は理由がある。しかのみならず原判決は右被告人幸に對する前記豫審判事代理判事の訊問調書を被告人上田の犯罪事実認定の資料にも供していることは、原判決自體によって明らかであるから、原判決破毀の右理由は被告人上田にも共通であって原判決被告人上田の爲にも破毀を免れない。

以上の理由により原判決は全部之を破毀すべきものであるから、爾餘の各辯護人の上告趣意に對する判斷を省略し刑訴施行法第二條舊刑訴法第四四七條、第四四八條の二に從って主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎)

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